建築設計学科では、2年次に選択授業として、企業と連携した実践提案を行っています。これまでにマンションや居酒屋のリフォーム提案を行い、実際にプランが実現したケースも少なくありません。今年で10年目を迎える今回は、大手コンビニエンスストアの株式会社ローソンと連携。受講生10名が、中国・重慶市にある店舗と、店舗面積が小さいコンパクトな店舗のリノベーションプランに取り組みました。7月にはローソン関係者や福田学園理事長を審査員に迎え、プレゼンテーションと審査会を開催。最優秀賞、優秀賞、佳作が選ばれ、最優秀作品は実現のチャンスが与えられます!
今回はプレゼンを終えた、受講生のバヤラ・マラルさんと、担当教員の木村先生にお話を伺いました。
ー プレゼンテーション、お疲れ様でした!自信のほどはいかがですか?
マラル:うーん、あんまりないです(笑)。私は企業が求める要件を押さえて提案していった感じなので。
ー 審査員からは概ね好評をいただいていましたね。今回は、誰もが知っている大手コンビニストアがテーマでした。マラルさんはコンビニと聞いて、どんなイメージを思い浮かべましたか?
マラル:実は、私の出身地であるモンゴルにはコンビニがないんです。来日してはじめて目にしたのは、ビルの1階に入っている大阪市内のコンビニでした。だからコンビニを考える、というテーマを聞いて、「ビルに入った、小さくて商品数の多い店舗」というイメージが強かったですね。もちろん課題が出てからは、平屋建の広い店舗や、ローソン以外のコンビニもまわって、リサーチを重ねました。
ー プランはどのように組み立てていったのですか?
マラル:まずは、ローソンの取り組みを調べるところからはじめました。そこで「忙しい人にごちそうを提供する、身近な存在でありたい」という想いを込めた「ごちろう。(ごちそうローソン)」プロジェクトを知って。そこから、忙しい人でも限られた時間のなかで食を楽しめる空間として、イートインスペースに注目することにしました。それに、中国には朝ごはんを外で食べる習慣があるので、イートインは文化的にも合うんじゃないかと思ったんです。
ー ほかの学生からも、いくつかイートインスペースに着目したプランが出ていましたね。時間によって座席の配置を変える、テーブルで映画を見られる仕組みをつくるなど、どれも面白いプランでした。マラルさんは、イートインスペースをどのように設計しましたか?
マラル:重慶のプランでは、より自由な形態で食べてほしいとの想いを込めて、屋外と屋内の2箇所にスペースを設けました。
ー 審査員からは、壁面に広告を展開するなど、さらなる活用アイデアも飛び出していました。
マラル:でも実は、今回プランニングするうえで一番悩んだのは、屋外イートインスペースでした。敷地の一部を、道沿いに公共空間としてひらくことになる。つまり売場面積が減るので、ビジネスとしてはマイナスに見られる可能性もあったんです。最終的には、「建築的に良いものであればリピーターを増やせるのではないか」と考えて、プランを固めていきました。
ー コンパクトな店舗も、コンセプトは一貫していましたね。
マラル:はい。最初は店舗内にイートインスペースをつくろうとしたのですが、敷地面積が小さいのでどうしてもうまくいかなくて……。そこで、建物をなかに入る場所ではなく、モノとして捉えることで、解決できないかと考えました。最終的に、建物の屋上を人が憩えるスペースとして設計することにしました。
ー 木村先生、マラルさんのプランはいかがでしたか?
木村:学生らしい自由な発想が素敵ですね。今回は、実現に向けたリアリティを追求しつつ、学生らしい自由な発想も求められていました。コンパクトローソンの課題はかなり制約が厳しくて、難しかったと思います。でも、そのなかで立地をうまく設定できましたね。
マラル:はい。家の近くにある天王寺パークのなかに敷地を設定しました。ここは都市部にありながら開けていて、週末はイベントでたくさんの人が集まります。心地よい空間なので、気に入っているんです。身近な場所の方がイメージもしやすいですし。
木村:ビジネス面も含めて、革新性や心地よさが集約されている面白いプランだよね。
ー この授業では、インテリアや照明、グラフィックなど、多様な分野の講師を招いて講義を行ったそうですね。
木村:はい。昨今、建築家が求められる領域は、より広く、深くなっています。厳しいようですが、設計だけを学んでも社会では通用しません。さまざまな分野から設計を見つめ直すことで、建築を取り巻く環境から知ることを大切にしています。マラルさんは、どの回の授業が印象に残ってますか?
写真提供:建築設計学科
マラル:企業コンサルタント(社会保険労務士・中小企業診断士)の、中武篤史先生の講義ですね。看板の角度を変えるだけで、集客を増やすというワークショップを行ったんです。少しの気遣いで、建築がよりはっきりと目的を果たすことができると気がつきました。
ー 企業コンサルタントと聞くと、建築には関係なさそうにも思いますが……。
木村:そうですね。美しいデザインや革新性ももちろん大切ですが、クライアントにとって最も重要なのは、ビジネスに沿っているかどうかです。この授業では単にデザインの手法を教えるのではなく、どのようにビジネスや利益につなげられるかを考えます。だから、まずはクライアントである“企業”とは何かを考えるところからはじめるんですよ。
ー 最後に、改めて授業を振り返ってみていかがでしたか?
マラル:設計が今まで以上に、ほかの授業での学びや、生活のなかで感じることと紐づいていることに気がつきました。これからはじまるPDP(卒業制作)にも生かせそうです!
木村:学生たちのプランを聞いて、ローソンさん側にも、「このプランは磨けば生かせるな」という実感はあったんじゃないかと思います。企業、学生、先生がお互いに本気になれるいい状況ができあがっているので、今後も企業を巻き込んだ授業に展開したいと思っています。
プレゼンから1週間後、マラルさんのプランが最優秀作品に選ばれました。実現に向けて今後プランをさらに磨きあげていく予定です。今後の展開も、お楽しみに!
Photo: Tatsuki Katayama (webjin Inc.)
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