(左):樫原千奈さん [インテリアデザイン学科2年生]
(右):大西崇之先生 [インテリアデザイン学科、建築学科]
建築系学科では、毎年授業の一環として「あすなろ夢建築」大阪府公共建築設計コンクールに出品しています。第31回を迎えた2021年は「季節を感じる集いの場」をテーマに、大阪府営吹田古江台住宅の集会所の設計を競いました。211点の出展作品から、樫原千奈さんがグランプリ、赤堀さくらさんが準グランプリ、砂野ななみさんが奨励賞を受賞。3月25日には大阪・咲洲庁舎で授賞式・プレゼンテーションが行われました。なお、グランプリの作品は、事業化され実施設計へ進められる予定です。今回は樫原さんと担当教員の大西先生に、プロジェクトの裏側を聞いてみました。
グランプリ 樫原千奈さん (インテリアデザイン学科2年生)
『RGB古江台—後世に繋ぐ集会所—』
既存の集会所の面影を残しつつ、木造の良さを引き出し、風景を楽しめる計画に。赤い屋根・豊かな緑・青い空からなる「集会所としてのRGB」と、集会所から見える赤い電車・豊かな緑・青い空からなる「地域としてのRGB」をテーマに、地域との関わりを大切にした集会所が設計されました。
評価のポイントは、木造の良さを生かした外観のほか、パーゴラ※1や廊下に面した縁側、ウッドデッキが外部との関係性をつくり出す点。プレゼンテーション後には、審査委員長から「エントランス横のパーゴラにより生まれるポーチ※2は、集会所をよく利用する人たちだけではなく、通りすがりの人も立ち寄れるような場所として活用が期待できる」との講評も。
※1 軒先や庭に設置されるつる植物を絡ませるための棚。日除けなどで用いられる
※2 玄関の前にある、ひさしのついた空間
ーー敷地周辺の魅力も盛り込んだプランでしたね。どのように設計を進めていきましたか?
樫原:はじめは5つほどパターンを考えていたのですが、どれもしっくりこなくて。何度か現地に足を運んでリサーチを重ねるうちに、このプランのきっかけとなる、敷地からの見晴らしの良さに気がつきました。集会所の敷地は、静かな高台にあります。古江台の団地に広がる植栽の美しい緑、開けた青空、遠くに見える赤い阪急電車——そんなのどかな風景を生かすため、景色がよく見える和室から設計を進めました。
それから、現地を歩くうちに、設計に生かせそうな北千里の特徴が見えてきました。まず、町にえんじ色が散見されること。阪急電車の車両や、近くに掛かる鉄橋、マンションの耐震ダンパー、タクシーなどに使われていて、現集会所に使われているファサードのタイルもえんじ色! 町に馴染み、現集会所の面影を残す色として、設計に取り入れました。
また、北千里のまちには竹林が多くあって、調べてみると、全国的に竹害が問題になっていることを知り、資源として生かすべく、デッキに使用しました。さらに、数年ごとに地域の人たちが地元の竹でつくり直す仕組みに。資源を循環させることはもちろん、ここで新しいコミュニティを形成したり、管理に関わることで集会所への愛着を持ってもらえたりするのではと期待しています。
ーー大西先生の眼に、このプランはどのように映りましたか?
大西:「あすなろ夢建築」は実施コンペなので、アイデアだけでなく、どれだけリアリティをもって計画できるかが重要です。本来建築は、敷地に立ってまわりを見渡し、周辺環境を読み取らなければ、窓ひとつ取り付けられません。計画を練っては、仕上がりをイメージしながら再確認し、窓の位置や壁を調整していく。そういうことを丁寧につなげていった結果だと思います。
樫原さんはもう2年生の後期だったので、あえて事細かに指導はしませんでしたが、ひとつだけしつこく問い続けてきたことがあります。「この設計には、どんなストーリーがあるか」です。
つまり設計者がどんな意図や目的で、何を伝えようとしているかということですね。コンセプトもそうですし、指定された木造をどのように計画に組み込むか、敷地周辺はどんな場所か……。さらに視野を広げて、SDGsや脱炭素といった社会課題を含めてもいいでしょう。いろんな尺度でものごとを見据えながら、ストーリーを編み上げていく。建築は試しにつくることができないから、何もない状態でどれだけ建築のイメージを固められるかが大切です。樫原さんからストーリーを聞いて「それなら、この建築はありえるな」と思えました。
ーーこの作品は卒業制作と並行して制作したそうですね。大変だったのでは?
樫原:卒業制作では、1年生のときに計画した建築の実施設計※3を行いました。実は今回の作品は、その構造を活用したものなんですよ!
※3 完成イメージである「基本設計」を、施工業者が作業できるようにさらに詳細に設計すること
大西:そうそう。1年生で学んだ計画力と、2年生の卒業制作で身につけた技術力を融合させて、コンペに生かすことができた。
樫原:いい流れでしたね。プレゼンでも、卒業制作で学んだ登り梁など専門的な話をすることができて、少しは説得力が出たかな。緊張で頭は真っ白でしたけど(笑)。
大西:実施コンペとはいえ学生作品なので、予算の都合などで仕様は変わるかもしれない。でも、建物を構成するコンセプトがごそっと変わることはありません。設計した空間の質やストーリーが失われて、違うものが出来上がることはないと思いますよ。
樫原:それにしても、まさかポーチが高く評価されるとは! あれは、建物全体の形を崩さず面積を生かすためにつくった、おまけ的なスペースだったから……(笑)。
大西:ほんまやな。でもそれが面白い。提案した側はネガティブなポイントだと思っているけれど、相手はポジティブにとらえてくれるという。答えがあってないような世界だなとあらためて感じますね。
ーー最後に、おふたりからひとこと!
受賞作品をピックアップ!
準グランプリ 赤堀さくらさん(建築士専科1年生)
『U』
赤堀さんが感じた現集会所の魅力は、植栽が周囲をめぐる閉鎖的で寂しい場でありながらも、静かな時間が過ごせる心地良さ。そこで、豊かな自然に面した、空間を包み込むようなU字の建築を提案しました。また、お花見デッキ、お花見縁側、休憩スペースと名付けられた広いウッドデッキを設けることで、開放的な雰囲気を生み出しています。
奨励賞 砂野ななみさん(インテリアデザイン学科2年生)
『結』
室内と半屋外のウッドデッキがつながった、開放的なコミュニティルームを設置。遊歩道からも集会所内の様子がうかがえる構造とすることで、周辺へのアピールが狙える大胆さが評価されました。敷地の高低差を生かして、コミュニティルームの一部を法面(斜面)に突き出すことで、ツリーハウスのような雰囲気を醸し出しています。
Photo : Natsumi Kinugasa