(左):岡田寧々さん [インテリアデザイン学科2年生]
(右):大西崇之先生 [インテリアデザイン学科]
インテリアデザイン学科2年次では、自ら設定したテーマを追究し、建築計画に取り組む授業「スペースデザインa、b」を行っています。そのなかで大事にしていることは、身近な素材や環境に着目しながら、空間のあり方を思考する建築的な視点をもつこと。人々の営みや地域文化、社会の様相を見据えることから、豊かに設計を構築する力を培います。
今回、この授業の一環として学生たちが挑んだのは、「廃材(ゴミ)を新しい形に!! アップサイクル[※1]マーケット」の企画運営。まちの文化や魅力を再発見するフィールドワークから、廃材を生かしたプロダクトの制作、マーケット会場の設営・接客までを経験しました。持続可能な社会を模索し、学生自らが実践したものづくり・まちづくりのプロジェクトを、学生リーダーを務めた岡田寧々さんと、担当教員・大西崇之先生が振り返ります。
※1 廃棄物にアイデアやデザインによる新たな価値を付加し、製品として生まれ変わらせること
大西:インテリアデザイン学科では、主に空間設計を学習するので、プロダクトデザインは新鮮だったんじゃないかな。
岡田:はじめは設計とどうつながるのか、すこし戸惑いもありました。しかも、「アップサイクルってなんだろう?」というところからのスタート。お客様を招くマーケット本番を無事に迎えられるか、ヒヤヒヤすることも……。
大西:みんな約4ヶ月間、よく走り切りました(笑)。今回「アップサイクル」に取り組んでもらった背景には、ゆくゆくはリノベーションや既存建築の有効活用にも目を向けてほしい、という想いがありました。これからは、建築を新しくつくるだけでなく、今ある建築に付加価値を与え、再び世の中に返すという循環的な考え方がより重視されます。だからこそ、まずは身近な物事を通し、ものの見方を変えたり組み合わせたりして、新たな価値を柔軟に見出す“編集的”な視点を養ってもらおうと思ったんです。最初は特別講義として、まちづくりコーディネーターの平川隆啓さんと、昭和町のフィールドワークに出向きましたね。
岡田:はい。測量的な実地調査とは違う、地域を巡るまち歩きでした。定められた目標地点に向かう道中で、各々気になったものを写真に撮っていくのが面白かったですね。歩いていると、空き家をいくつか見つけたり、迷路のような路地に惹きつけられたり。はたまた、使われなくなった自販機のショーケース部分を、ディスプレイを兼ねた収納として生かしている家などもあり、驚きました(笑)。
大西:思いがけない工夫を発見できるのも、まち歩きの面白いところです。「昭和町」という地名は、まさに“昭和にできた町”[※2]という由来もある。学生のなかには、都会の風景に慣れ、下町の雰囲気やシャッターが下りた商店街のまちなみに馴染みのない人もいると思います。そうした歴史の歩みを経たレトロな空気感に触れ、みんながどんなことを感じとるかも楽しみにしていました。
※2 大阪市阿倍野区昭和町の地名は、同地域の土地区画整理にあたった阪南土地区画整理組合による土地造成が、昭和4年に完了したことを記念してつけられた
岡田:歩いたあとは、文の里商店街のなかにあるギャラリー兼レンタルスペース「まちマチ ART & DESIGN FUMINOSATO」のご協力を得て、撮影した写真をプロジェクターに投影しながら、どんな点に面白さや魅力を感じたのか発表し合いました。いろんな角度から、地域の方の営みや商店街との関わりを覗くことができる機会だったなと思います。
大西:そうですね。マーケット会場も、同じく文の里商店街に位置する建築事務所・株式会社入船設計さんのシェアスペースをお借りしました。OCTの先輩も勤務していて、長屋を改装した社屋からも見てとれるように、まちと共存する場づくりを実践されている企業さんです。現地に根ざす方々と協働することで、まちと関わることがよりリアルな体験として感じられたのではないでしょうか。
岡田:ほかにも建築関連の仕事を担うプロの方々による、アップサイクルをテーマにした特別講義も受講しました。たとえば、庭師の方には、剪定で落とした枝葉を乾燥させ、それを素材として販売展開している実例を紹介いただいき、着眼点が豊かで、既存物を生かすものづくりの可能性が広がったように感じられました。ただ、いざ自分たちで商品を考案しようとすると、思うようにはいかず……。
大西:なかなか一筋縄ではいかなかった。どんなところに苦戦しましたか?
岡田:リサーチをして、廃棄されるものが身近にたくさんあることはわかってきたのですが、どのように活用できるか、具体的なアイデアに落とし込むまでが難しかったです。方向性が決まっても、売れるものにするための機能やデザイン、そのつくり方を試行錯誤。どの班も時間がかかっていました。
大西:そうだね。でも、環境問題のネックになっているものに着目したり、不要品を探したりするところから、商品としてどのように社会へ還元できるか、みんなユニークに考えていたと思いますよ。
岡田:私たちの班では、早い段階から、大工技能学科の実習で生じるカンナの削りくずを使いたいと考えていました。一枚一枚薄くてきれいだけれど、それだけではものとして使えない。でも、重ね合わせると強度が増すんです。接着剤の配合を調整しながら、木の風合いが感じられるハリのある素材へと変容させ、ランプとカップホルダーをつくりました。
大西:会場でも、削りくずを商品のすぐ側にディスプレイしていたのがよかったと思います。「これがこんな商品になるんだ」と、ものづくりのストーリーをお客様に感じてもらうための工夫が見られましたね。
岡田:マーケットには、学校関係者はもとより、地元の方々が多く立ち寄ってくださいました。ランプを手に取って、「あったかいね」と購入してくださったときは、すごく嬉しくて。各班それぞれにテーマを深め商品を模索してきましたし、ポスター制作やSNSでの告知などもチームで分担しました。みんなにとって、自分の思考を伝える実感が一番に得られたのは、お客様と直接向き合う時間だったんじゃないかなと思います。
各班が手がけた作品
大西:今回のプロジェクトのゴールは、“商品をつくって売る”ことではなくて、やっぱり“建築的な思考で、社会に対して答えを出す”ことなんですよね。
岡田:「これだ!」という正解がないので、自分たちのプランが通用するのか、正直不安もありました。限られた時間のなかで力を尽くした達成感もある反面、物事の背景を知るためにも、ものづくりのクオリティを高めていくためにも、深めていくべき余地がまだまだあるなと感じています。
大西:うんうん。どのように応答できるかを考え続けるプロセスは、建築に携わる僕たちが、絶えず挑んでいかなければならないことでもあります。もちろん、大きな環境・社会問題を、いきなり解決しようとしても難しい。でもその一歩として、身のまわりにあるものに、面白みや可能性を見出す視点も大事にしてほしいと思います。
岡田:みんなの作品を見ていると、どんなものでも見方を変えれば、新しい価値が生まれるんだと感じました。将来は店舗設計の仕事を目指していますが、固定観念にとらわれず、既存物の活用も、アイデアや選択肢として臨機応変に取り入れていきたいです。
プロジェクト協力者の
みなさまからひとこと!
川名一吉先生[担当:OCT講師/super architects 代表]
SDGsが掲げられる現代において、学生たちと実践を通して、環境保護やサステナビリティについて考えたいと思いました。今回は、道具や家具といった小規模なものを制作しましたが、建築の空間設計にも、循環的な考え方を応用してもらえたら嬉しいですね。
平川隆啓さん[あべのって代表/まちづくりコーディネーター]
「アップサイクル」というテーマをどうとらえられるか、僕自身もあらためて考える機会になりました。まち歩きのフィールドワークで体感した、物事の“課題”だけではなく“面白さ”にアンテナを張る手応えを、今後もあたためていってもらえたらと思います。
入船美穂さん[株式会社入船設計]
新旧の文化が入り混じる昭和町を、実際に巡り歩き、知るところからはじめてくれたことが嬉しかったですね。学生たちが、まちがもつ潜在的な可能性や魅力を見出そうとする挑戦こそが、すでに「まちのアップサイクルになっている!」と感じました。
Photo : Hanako Kimura